むかし むかし、六代目のフンという王が国を治めたころのお話です。
王は自分が歳をとり、体がだんだんと弱くなっているのを感じたので、やさしくてかしこい子どもを選び、自分のあとを継がせようと考えました。
王は思いました。
「私にはかしこい子どもが何人もいる。きちんと選ばなくてはいけない。 特に子どもたち同士が争うことがないようにしないといけないなぁ」
これが王にとっての一番の悩み事でした。
ある年の正月前、王は王子たちを呼び、こう告げました。
「私があの世に呼ばれ土に帰るのも、そう先の話ではない。お前たちの中の一人に王の位をゆずりたい。新年のお祭に、天地の神さまへお供えするのに、一番珍しくて意味があるものを持ってきた者に、王の位をゆずることにしよう」
父である王の言葉に従って、王子たちはあちらこちら珍しいものを探し回りました。
どの子どもも自分がもっとも優秀だと示すことで、 王が自分を次の王に選んでくれるのを期待します。
22 人の王子たちの中で、18 番目の子どものラン・リュウは、小さい時から母がいません。
母がそばにいる他の王子たちと違い、ラン・リュウはうまくできるかとても心配でした。
ある晩 、考え続けたラン・リュウは寝返りするばかりでしたが、いつの間にか眠ってしまいました。
眠っている間の夢に、神様が空から現れて、こう言いました。
「この世でいちばん広くて大きいものは天と大地で、一番大切なものは米だよ。 米を使って天のように丸い餅と、大地のように四角い餅を作りなさい」
目覚めたラン・リュウはとても喜んで、その夢を家族に話しました。
村人も喜んで、神様が教えた通りにラン・リュウを手伝い、天をあらわす丸い餅を作りました。
次に、大地をあらわす四角い餅を作りました。
餅の中には緑豆、豚肉を入れ、ゾンという新鮮な葉で包みました。
大地は植物と動物を守るという意味を込めているのです。
新年のお祭りになりました。
父との約束の日を忘れず、全ての王子たちは王宮に珍しい物を持ってやってきました。
ラン・リュウと家族は、一番きれいでおいしそうな餅を選んで持ってやって来ました。
王子たちが次々と準備してきた物を王に差し出すと、王と周りの部下たちがそれらを食べくらべました。
ラン・リュウの番になりました。
お盆のうえにはふつうの餅があるだけでした。
それを見た人々は、みな、 この地味なものをみて不思議そうな顔をしました。
しかし、味見をした人の様子はがらりと変わり、しきりにうなずくのでした。
珍しい餅を食べた後、王はとても驚いて、どうやってこの餅を作ったのかを尋ねるため、ラン・リュウを呼びました。
ラン・リュウは作り方を父に伝え、 あの夢のことを付け加えるのも忘れませんでした。
王のフンは大いに喜んで、とてもまじめな顔つきで王子たちに言いました。
「この餅はおいしいだけでなく、特別な意味もある。この餅は簡単に作れる。しかも米という世の中の一番大切なものから、誰でも作れるものだ。こんなものを考えつくのは、優秀に違いない。私は、ラン・リュウが作ったものを天地へのお供えとして選んだ。18 番目の王子が新しい王としてふさわしいと思う」
王は天の形の餅をバイン・ヤイ、大地の形の餅をバイン・チュンと名づけました。
それから、毎年お正月が来るとバイン・チュンとバイン・ヤイを作り、天地やご先祖様へのお供えとするのが習慣となりました。
そしてラン・リュウは、第七代フン王となりました。
ベトナムの人は今でも、このすばらしい伝統を受け継いでいるのです。