Cây Nêu (カイネウ)は、天と地をつなぐものであり、魔除けや五穀豊穣を祈ります。
いつ頃からか、どうしてその様になったのか解りませんが、 昔、鬼が国土を支配していました。
人々は鬼の土地を間借りし 、そこで作物を作っていました。
鬼は人々に対し、日に日に過度な要求をするようになって行きました。
鬼は年貢を2倍に上げ、さらに毎年、少しずつ増やしていきました。
そして最後には、人々に対して特別な規則 ”上の部分を食べるから、下の部分を与える”を作り、これに従って年貢を納めるよう強制しました。
人々にはとても受け入れられる規則ではありませんでしたが、鬼は従うように強制してきたのです。
その結果、収穫後は、人々には、藁以外は何も残されていませんでした。
人々が骨と皮だけに痩せ細った悲惨な光景が、各地で見られました。
鬼たちは満足して高笑いし、一方、多くの人々は、いっそう死んでしまったほうがましだ、と思いました。
鬼の過酷な搾取から人々を助けるために西方から仏様がやってきました。
仏様は来年は稲を植えるのをやめ、サツマイモを植える畑を耕すように言いました。
人々は仏様の言葉を守りました。
人々が反抗して、新しい計略を始めるとは、鬼は思ってもいません。
”上の部分を食べるから、下の部分を与える”という昨年からの規則を続けていました。
収穫の季節になり、鬼はかんかんになりました。
豊かに実った芋を見て、人々の家に駆けこむと、そこには山のように積まれた芋があり、鬼の家には、食べられない芋の茎と葉だけしかありません。
しかし、腹が立っても、自分たちが決めた規則ですので鬼は、口を閉ざさざるを得ず、どこにも文句を言う事ができません。
次のシーズンに向けて、鬼は”下部を食べて、上部を与える”という新しい規則に変更しました。
すると、仏様は、人々に稲に植え替えるように伝えました。
その結果、鬼はまたもや食物を得ることができません。
黄金色の稲は人々の家に、藁は鬼に与えられました。
はらわたが煮えくり返るほど怒った鬼は、翌年は”上部も下部も食べる”という宣言をしました。
今回こそはと鬼は思いました。
「あいつらが何を植えたいと思おうが、いづれにしても、俺たちの手から逃れることは出来ないんだ」
しかし、仏様は考えて、人々はまた違った新しい種に変えました。
仏様は至る所にその種を蒔くようにと、トウモロコシの種を与えました。
その年もまた、人々は、自分たちの苦労が無駄ではなかったということを見て喜びました。
人々の家の中には、まだ、食べきれないお米があり、さらに、トウモロコシが運び込まれ、いっぱいに蓄えられました。
鬼は、再び辛酸を嘗めさせられ、毎日毎日、何日も怒り続けました。
とうとう鬼は、もう人々に小作させないように、全ての畑を返還させることにしました。
鬼は心の中で考えました。
自分たちが食べ物を得るためには、むしろ何も与えない方が良い。
すると今度は、仏様は、袈裟を竿に掛けて、その袈裟の影ができた土地を譲るように鬼と話しました。
人々は竹を植え、竹に袈裟を掛けます。
その影ができた土地を、人々の土地にしましょう。
つまり、竹を植えて、その上に袈裟をかぶせましょう。
そうしたら、地面に幾らかの大きさの影ができ、その部分を人々の土地にします。
最初は鬼たちは同意しませんでしたが、その土地は小さくて大した価値もないだろうと鬼は思いました。
「まあ、袈裟程度なら、大した事は無い」
両者は契約書を作りました。
影の外の土地は鬼の土地、影の中は人々の土地である、と。
人々が竹を植え終えると、仏様は竹の先に立って、袈裟を丸く広げてかぶせました。
そうしてから、仏様が呪文を唱えると、竹はぐんと伸びて、天まで届くほど、高くなりました。
すると、袈裟の影で空は暗くなってきました。
袈裟の影は徐々に、大地全体を覆ってきました。
鬼たちは、そんなに影が大きくなる事など予想もしていません。
影は徐々に鬼の土地に拡がってゆき、その都度、鬼は退却を繰り返さねばなりません。
最後には鬼の土地は無くなってしまい、東の海にまで退かされて行きました。
それ以来、人々はこの鬼を「東の鬼」と呼ぶようになりました。
鬼達は悔しいことに、作物ができる大地が全て人々の手に渡った事で、非常に怒りが込み上げて来て、それを取り戻すために軍隊を集めました。
人々は苦しい戦いをしなければなりません。
なぜなら、鬼の軍隊は、象、馬、猛犬、白蛇、黒虎などなど多くの恐ろしい猛獣を従えていたからです。
仏様は、人々を助けるために、錫杖を打ち鬼の軍隊が進軍しないようにしました。
鬼は不利な戦いを繰り返した後、家来に仏が恐れるものは何かを調べさせました。
仏様は果物とバナナ、お餅とゆで卵が怖いと、彼らに知らせました。
一方、仏様も同じように、鬼の軍隊が怖がるものをいくつか調べました。
それは、犬の血、パイナップルの葉、ニンニク、石灰でした。
さらに幾度かの戦いの都度、鬼の軍隊は、何も知らずに沢山の果物を仏様に投げつけました。
仏様は人々にそれを拾わせ食料にしました。
そして一帯に犬の血を撒きました。
鬼の軍隊は、犬の血を見て怖がって逃げて行きました。
二度目に鬼の軍隊は、ご飯とバナナを仏様の軍に投げ込みました。
仏様はそれを人々に拾わせ食料にしました。
そして、敵の軍隊にニンニクを潰して吹き付けました。
鬼の軍隊はニンニクの匂いに堪らず、一目散に、一人残らず逃げて行きました。
三度目は鬼の軍隊はコムナム(おむすび)と茹で卵を仏様の軍隊に投げつけました。
人々は好きなだけそれを食べ、仏様の言葉に従って、石灰を手にとって鬼に振りかけました。
人々は更に、パイナップルの葉をとり、鬼たちに打ち付けました。
鬼は逃げ惑い、東の海に追いやられました。
鬼達はとても消沈した様子で、年寄りの鬼も若い鬼も、男の鬼も女の鬼も荷物をまとめて出て行きました。
鬼達は悲しそうに、一年に数日だけ陸に上がり先祖のお墓参りをさせてほしいと、懸命に頭を下げて仏様にお願いしました。
仏様は鬼達の響き渡る泣き声を憐れに思い、約束をしました。
その結果、毎年、正月がやってくる度に、鬼は陸地を訪れることができるようになりました。
そして人々は鬼が人々の暮らす場所に入ってこない様に正月の竿を立てる事が古くからの習慣になりました。
竿の先には小石が付けてあり、風が揺らす度に音を出し、鬼がそれに気づいて近づかない様にしているのです。
それ以外にも、鬼が怖がるパイナップルの葉や、棘がいっぱいの木の枝を掲げます。
人々は先端が東を向いた弓矢の絵を描き、テトの日には、鬼が入れないように石灰を地面に撒くようになりましたとさ。